岩井 克人 佐藤 孝弘
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メインは第5章(と第7章)
新しい時代の「M&A」とは何かゼミの教官に進められて読んでみました。
M&Aを通じて国富を創り出すためには、どのような敵対的買収防衛策などのルールが必要かということを経済学的な観点から考えた本です。
『株式会社の本質と敵対的買収 ~敵対的買収ルールに関する東京財団案~』の解説本という位置づけでしょうか。
筆者たちは日本における「資本鎖国主義」も「株主至上主義」は両方とも間違っていると主張します。アクティビストたちの株主至上主義はもちろん間違っているし、かといってひたすら買収を拒否する経営者も間違っていると考えます。
ダメな経営者は交代すべきだし、グリーンメーラー的行為は排除しなければいけない。
ところが現状ではアメリカ型ポイズンピルの導入に失敗した日本の敵対的買収防衛策は機能不全で、グリーンメーラーにはおいしいし、株主持合などの経営者の怠慢も引き起こしていると批判します。
すべての諸悪の根源はブルドックソースとスティールパートナーズの争いで、最高裁判所がブルドックソースの買収防衛策を合法としたことに端を発するというのが彼らの主張です。
この買収防衛策は株主総会特別決議で導入され、更に敵対的買収者には金銭を払って退出してもらうというスキームになっています。このため、グリーンメーラーは敵対的買収を仕掛ければ最終的には必ず金銭を得ることができ、経営者側は特別決議を通しやすくするために株式持合いを推進してしまうということになります。
このような事態になったことは、そもそも会社の概念がアメリカと日本でまったく異なるのに、形だけアメリカを真似たのが間違いの始まりとし、政策提案ということで上記リンクにある敵対的買収ルールの提案につながるというのが全体のストーリです。
これだけ読むとまぁ普通の本なのですが、この本のいいところは経済学的に会社の役割をしっかりと考えているところです。
株主は所詮有限責任に過ぎず法人としての会社を所有しています。しかし、法人としての会社はその所有物として組織や設備を持ちます。
真に社会に価値を生み出しているのは後者の人的資源に負うところが大きく、この部分を無視したただの株式売買としての企業買収は人的資源を破壊するよくない買収だと定義されます。
この辺の議論は、よくいう「会社は株主のものだけでなく従業員や社会のものだ!」という感覚的な主張を経済学的に主張したものとなり、非常にすっきりと理解することができます。
この本を読むと、金融工学やファイナンスというのは現在の法制度上の手法に過ぎず、ベースとしては経済学の考え方が重要なんだなということがよくわかりますねー
これ以上の詳細は読んでいただいたほうがよいかと。株主至上主義の方も、資本鎖国主義の方もこの本を読んで理解してから、その内容を肯定するなり否定するなりしながら議論をしたほうがいいですね。
とかくこの辺の議論は感情的で道徳的な相手のけなしあいになることが多いので。(苦笑
先生の進めたとおりM&Aに関わる人は読んで損はないと思います。すべてが正しいとは限りませんが、考え方としてはただの感覚論を超えて述べられているので勉強になります。

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